第206回 防災まちづくり談義の会 「福祉施設のBCP(事業継続計画)を考える」開催レポート

「福祉施設のBCP(事業継続計画)を考える」

1.開催概要

  • 日 時:2025年9月18日(木)
    (講演・質疑応答:15:00~16:45)
  • 会 場:神奈川県民サポートセンター 11階講義室
    (横浜市神奈川区鶴屋町2-24-2)
  • 主 催:防災塾・だるま
  • 参加:会場19名・Zoom3名(計22名)
  • 講 師:宮本英治 氏(災害対策研究会 代表/地域安全学会 名誉会員)
  • テーマ:「福祉施設のBCP(事業継続計画)を考える」

宮本氏は、地震被害想定システムの開発や、日本初期の緊急地震速報の現場応用に携わり、全国で防災・BCP指導を行ってきた第一人者である。今回は、とりわけ**「災害時にケアを止めない」**ことが求められる福祉施設を対象に、実践的なBCPのあり方をご講演いただいた。

2.講演内容の詳細

(1)福祉施設の被災事例と教訓

近年の大規模災害における介護・福祉施設の被害と教訓が共有された。

  • 能登半島地震(2024年):旧耐震建物の倒壊、液状化による機能停止、長期の断水・停電等により多数の関連死が発生。「備蓄は3日で十分」との想定が崩れ、1週間以上の孤立に直面した。
  • 東日本大震災(2011年):沿岸部の施設が津波被災。避難場所に指定されていた施設自体が津波に呑まれた事例(南三陸町・慈恵園)から、事前の避難計画と高台移転の重要性が強調された。

これらは「関連死は防ぎ得る人災」との強いメッセージを伴い、BCPの未整備・訓練不足が被害を拡大させた事実を示した。

(2)BCPの本質と検討手順

宮本氏は「BCPは書類作成ではない」と強調。以下の手順を継続的なサイクルとして回すことが不可欠とした。

  1. 被害想定・基本方針:どの災害が、いつ、どう起き得るか。
  2. 予防:耐震補強、ライフライン二重化、備蓄整備。
  3. 初動対応:発災直後30分の行動(声かけ、初期消火、救出、応急手当)。
  4. 事業継続:介護・給食・福祉避難所機能の最低限維持
  5. 備え:マニュアル、物資、資機材の配置。
  6. 啓発・訓練:施設内・地域・協力事業者を巻き込む。
  7. 見直し・改善:訓練・実災害のフィードバック反映。

とくに**「最初の72時間をどう耐えるか」が生命線であり、介護施設は自助力**を持ちながら、地域・広域支援ネットワークと繋がることが不可欠とされた。

(3)避難の誤解と正しい理解

地震=避難」という短絡は誤り。

  • 避難場所:津波・洪水等の一時的回避の場所。
  • 避難所:住家を失った人の一定期間の生活の場。

集合場所と避難所の混同」が多く、避難所は“早い者勝ち”ではない。事前の割当てが必要で、むやみに殺到すれば二次被害につながる。
また、「本来の防災は『避難しないで済むこと』」であり、強靭な建物と備えで被害最小化を図るべきと強調された。

(4)DIG(災害図上演習)の実践効果

地図を囲んで被害想定と対策を議論するワークショップ

  • 参加者の主体性を高める
  • 地域・施設の弱点の見える化
  • BCP検討に直結

防災は現場力」。DIGを通じ、職員・住民・行政が共に考え、実効性ある行動計画に落とし込むことが大切とされた。

(5)南海トラフ地震と首都直下地震への備え

  • 南海トラフ:国の新基準で「レベル1(現実的想定)」「レベル2(最大想定)」を区分。警報は過大でも早さ優先へ。
  • 首都直下(都心南部直下M7.3):大規模停電・断水が想定され、通信は数時間で機能不全となる可能性。
  • 疎開の再来:関東大震災では約100万人、阪神・淡路では小中学生約2万人が疎開。大都市災害では広域避難が不可避との指摘。

3.意見交換・質疑応答(要旨)

  • 介護施設の備蓄は**「最低1週間分」**が必要か。
  • 多くの福祉避難所が機能不全の現状。施設・町内会・行政の協働が不可欠。
  • 小規模施設のBCP:限られた経営資源への支援策は。

宮本氏からは、「完璧主義より着実な小さな一歩」、「施設間の協力協定が最も実効的」との助言があった。

4.まとめと今後

本会では、まず被災しない対策こそが防災であること、そしてスタッフが自ら考え、タイムラインを構築し、訓練し、振り返って改善するという活性サイクルが対策の核であることが再確認された。福祉施設は単独対応に限界があるため、地域・被災地外施設との協力を前提にBCPを策定・訓練することが不可欠である。
今後、宮本講師によるDIG演習の開催を検討し、実装と反復を通じて現場力の底上げを図る。
(塾長 鷲山龍太郎)


次回予告(第207回)

  • 日 時:2025年11月20日(木) 15:00~
  • 講 師:小嶋 洋 氏(相模原防災マイスター)
  • テーマ:「災害時障害者支援」

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